かみさまのふねneo

Date : 2009年05月

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YUNO 4

【騒】

 突如。
 一瞬の、眩暈を覚える。

 世界がモヤモヤと粘度の高い影に呑まれていく感覚。
 またか。
 呻き。囁き。何かを憾むような、希うような、憎むような、(鬱陶しい)、祝福するような、叫ぶような、囀るような色々な感情が、(やめてくれ)、表情が、混ぜくちゃに、なって。

 聞こえない。

 聴きたくない。


 いったい私に、何を……。
 何を期待しているんだ。
 何も出来やしない、分かってるだろ?
 私には何をする意思も、許しもないのに。

 遠い……場所に……、あぁ……。



 幽か、な、光が。









「いらっしゃい。
 ……アンタら、なんかコントでも仕込んでんの?」

 そうやって店に入った瞬間、呆れ顔の女性従業員からそんな言葉を投げつけられる。

「コント?」

 眩暈の後遺症か、微かに頭痛を覚えるのを押し殺しながら答えた。
 ……生憎、そのようなものを仕込んだ覚えはない、が。

「あぁ、やはりアレが騒ぎを起したのか?」

 そのような扱いを受ける原因については、残念ながら見当が付いてしまうのだった。
 あの粗忽者が今度はどう騒ぎを起したのか。
 憂鬱な想像が、今まさに展開しようとする……

「やー、だからアンタも含めて、だってば。」

 ……しようとするところで、涼しいツッコミが入るのだった。

「むぅ?」

 心外な。

「アレはともかく、私は何もおかしな真似をした覚えはないぞ。」

 胸を張って謂れのなさを強調する。

「ついさっきナカムラの爺さんとジグザグ走法で店の前突っ走ってったのはおかしな真似じゃないって?」

したつもりが、わざとらしい笑顔で即座に返された。

「…………。
 それは、なんというか。」
 
 しかし、相変わらず見事に胡乱な営業スマイルだ。

「ま、アンタが爺さんの玩具(おもちゃ)にされてんのはいつものことか。」

 ふぅ、と大げさな溜息混じりの……そういう諦めとも哀れみとも付かぬ態度は、地味に傷つくのでやめてほしい。
 私は老人の暇つぶし相手の地位などに甘んじているつもりはないし、第一ヒトを「玩具」呼ばわりというのは……
 いや。

「そうではなくて。
 要するにアレはさっきまでここに居たんだな。」

「そうねー。
 アンタが入ってくる三十秒ほど前までは。」

「……本当に『さっき』だな。
 しかし、出てくるところが見えなかったが?」

 店員は黙って、やや苦味がかった笑みを帯びつつ店の裏口を指差す。
 半開きのまま蝶番の外れた扉が、きぃきぃと微かに揺られていた。

「あー……。」

 またこんな、絵に描いたようなドタバタの残滓。

「まことに、お騒がせして申し訳ない。」

 ともかく、頭を下げることしかできなかった。

「いやいや、別に良いんだけどねー。
 ていうか結構すごい音立てて行ったんだけどさ。
 まさか聞こえなかった?」

「……いや。」

 先ほどの、黒い靄が脳裏に浮かぶ。
 が、あながち愉快な心当たりでもないので、即座に掻き払う。

「おそらくちょうどその時は放心していてな。」

「放心ってアンタ……。
 あっはっは、奥さんも奥さんなら旦那も旦那だわ。」

 「あっはっは」とわざわざ口で言っている。
 そんないかにもわざとらしい態度を見せた後、なにか思い出したらしく、今度は本当に愉快そうに笑い出した。

「いやー、もうご馳走様でしたわー。
 せっかくの新婚さんだからちょっとちょっかい掛けてみたらさ、なんかものすごい勢いでお惚気聞かされちゃって。
 こっちが圧倒される勢いでねー。
 ゲンさんなんか胃もたれした顔でそそくさと逃げてっちゃったし。」

「…………。」

 その様子を想像……したくなくとも、ありありと脳内で再生されてしまう。
 今度はこちらが胃もたれしかねないので、とりあえず、そんな地獄のような状況に居合わせてしまった哀れな無骨漢に心の中で手を合わせておいた。

「そんでしばらくしたら、なんかドドドドー、って音がして。
 外見たらアンタと爺さんが店の前で鬼ごっこしてるしさ。
 そしたらあの子大慌て。
 きゃー、たいへーん!!まだご飯の準備できてないのにー!!、って急いで清算しようとして財布見つからなくて、キャーキャーごめんなさーいって。」

 頭痛が。
 予期していた恐るべき事態が、どうやら起こってしまったらしい事実の再現映像として、また頭の中で繰り広げられる。

「で、別にツケで良いよーって言う暇もなく、ごめんなさい急いで帰らないとーって商品置いて駆けてった直後に、件の相方のご登場ってわけ。
 テンポ良すぎるわよ、ホントに仕込んでないの?」

「事実は得てして小説より奇なるものだ。
 ……そんな三文コント、誰が好んで仕込むものか。」

 ズキズキと痛む頭を軽く小突きながら、ため息混じりに答えた。

「まぁ、別にフィクションでもノンフィクションでも構わないんだけどね。
 こういう面白いドタバタは、アタシら大歓迎よ!」

 アタシ「ら」、か。
 それが具体的に誰のことかは……
 まぁ、聞くまでもなかろう。

「そいつは良かった。
 とりあえず金は払うから、その商品は引き取ろう。」

「はいはい、お品物はこちらねー。
 早く追いかけて落ち着かせてやんな。」

そう言って渡された赤い缶詰だらけの籠に、私はまた軽い頭痛を覚えるのだった。
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受付嬢的な

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